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11月 28, 2006

股関節痛の50日間

 腰痛、膝痛に苦しむ人や原因不明の筋肉痛に悩む人が多い。整形外科に通っても症状は改善されず、医者を替えも診断や治療法や運動への助言が違って整形医への不信感が増すばかりでトンネルから抜け出せない。

 股関節に痛みを感じてから50日が経った。太極拳をしていて腰を捻ったことから、大腿部と腰の付け根に痛みを感じた。街の整形外科にいったら、レントゲン所見には異常がなく、筋肉の捻りだから10日もすれば治るという診断だった。スポーツジムの運動も続けてよいという。
 運動しないと筋肉が衰えて歩けなくなってはと、ウォーキング・ミルのマシン歩行や大腿筋を鍛える運動を医者のいうとうり続けた。足を引きずりながら外出もしたが、症状は改善するどころか悪くなる一方だった。
 2週間後に再び整形医に診察して貰ったら、腰椎から痛みがきているのかな、だがレントゲンには異常はないので、もう暫らく様子をみようという、前回とは変わらぬ診断だった。
 1週間後、血圧など長年通っている病院へ行こうとしたら、痛みがひどく車まで歩くのがやっとだった。運転には支障はなく50分ほど走って着いたが、診察室まで思うように歩けない。
 主治医は専門は消化器外科だが、30年来の付き合いである。ベッドに寝かせて脚の付け根から股関節一帯を押しながら、痛む箇所を探して「股関節の筋膜炎だから、風呂にゆっくり入って温めるしかない。ただし、最低1ヵ月はかかる」と診断をくだした。
 整形医の話をしたら、「筋肉はレントゲンに映らないから、診断がつかないのだろう。私の診断も推論で必ずしも正確とは言い切れない」と説明した。要するに、いまの整形医は、レントゲンに映る骨の異常しか分からないのだという。外科医として名声のある彼も、数年前、ゴルフで腰を痛めてから、それを痛感したらしい。「痛みは本人しか分からない」と付け加えた。

 家の中を這ったり、杖をつかないと歩けない最悪の状態に、このまま歩けなくなるのではと暗い気持ちになった。安静にして寝ていても治らないといわれ、さいわい車の運転はできるので、フイットネス・クラブのプールに通って水中歩行とジェット水流の温水マッサージを続けた。
 クラブにある入浴場で、ゆっくりお湯に漬かって体を温めた。プールでは浮力で体重が股関節に掛からないから、痛みもなく300㍍は歩けた。飽きたら股関節に負担のかからないクロールと背泳をして気分を変えた。
 家のなかを、どうにか歩けるようなり、鎮痛剤と貼り薬をもらいに整形医にいったら、MRIを撮れば正確な診断がつくのでと勧められた。提携している病院でMRIを撮ったら、大腿骨の骨頭に小さく黒くなった箇所があった。
 これが血流を邪魔して神経にさわっているらしい。股関節の変形は認められないので、重症ではない。暫らく様子、みて、普通のレントゲンでも分かるようになれば、進行している証拠だから、そのときに診断を下す、という頼りのない所見だった。まあ、これが整形医の限界と割り切った。

 その後、プールにせっせと通い、気温の低い日はホッカロンで腰を温めた。椅子から立ち上がるとき、机につかまらないとダメだったのが、さっと立ち上がれるようになった。椅子から立ち上がるとき、体重の7倍の重さが股関節にかかるという。私の身体では500㌔近い負担がかかるから、簡単にはゆかず、立ち上がってタタラを踏んでしまう。
 ズボンを穿いたり下着を取り替える衣服の脱着も大変だったのが、だいぶスムーズにゆくようになった。もうぼつぼつストレッチをはしめようと、大腿筋の上げ下ろし、脚を小刻みに揺する「貧乏ゆすり」を続けた。
 1ヵ月近く休んでいたストレッチ体操教室も再開した。股関節にひびく脚の運動はやめて、上半身の体操を主にしたら、身体が汗ばむ。すると、血行がよくなったためか、股関節の痛みが和らいで歩ける。
 水中歩行にしろ、ストレッチの全身体操は、血行をよくして入浴するのと同じ効果があるのを発見した。痛いところがあると、動かずに静かにしていると、血行が悪くなり、ほかの筋肉も衰えてしまう。
 整形医は、部分的に温め赤外線のリハビリを勧めるが、全身運動などは禁物という。最近、筋肉を鍛えることによって、膝関節の痛みを和らげる方法が提唱されはじめた。こうした研究に無頓着な整形医が多い。

 歩けなくなってから4週間後、主治医を訪ねた。生憎、雨模様の股関節痛にはよくない日だったが、車から降りて駐車場から病院へ普通に歩けた。4週前の難行苦行が嘘のようなのに驚いた。
 検査室に向かうのにも四苦八苦、会計で名前をよばれても窓口のカウンターへ辿りつくのが大変だった。それが、こんどはなんの苦もなくスタスタ歩ける。自分でも信じられなかった。
 診察室で待っていた主治医は、だいぶ良くなりましたねと顔をほころばせた。MRIの話をしたら「無駄なことをする」といぶかる。「大腿骨頂の黒い影といっても、はっきり診断がつくはずがない。治療法もないのだから。ただ、精神的な気休めにはなったでしょう」と整形医とは全く違う見解だった。
 「とにかく、ここまで良くなったのは時期が来たのと、プールの歩行や軽いストレッチの効果ですよ。あとひと月のすればもっと楽になります」
 「それに、精神的に気持ちが楽になったのも痛みを和らげた。筋肉を傷めた箇所は完全には治っていなくても、痛みは感じなくなります」
 痛みが慢性化すると、焦ったり、悩んだりするストレスが、脳にある「痛みの扉」を開けて痛みが酷くなるという話を聞いたことがある。主治医の話もそれとまったく同じだった。

 整形外科、とくに街の整形医はレントゲンだけみて「大したことはない。すぐ治ります」と患者を安心させる。私の主治医のように専門外ではあるが、経験から「長くかかりますよ。1ヵ月は覚悟しなさい」とはっきりいう。
 整形医も、気休めでなく、最初から長く掛かるといえば、患者の苛々も消える。早く治るといわれると、ついその気持ちになってしまうが、一向に効果がないと苛々してストレスがたまって「痛みの扉」が開く悪循環を繰り返す。

 まだ完治とはいえないが、希望がもててきた。歩き方、気温との関係、自分流のトレーニングをみつけて、プールや体操に通うのが楽しみになってきた。痛みに苦しんだ50日間も無駄ではなかった。

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