ドラマ『告知せず』に感動
テレビ朝日系列が先週末放映した『告知せず』は、ガンという重いテーマにもかかわらず、視聴率は19・9という同局のSP部門の最高を記録した。ガン告知をめぐる家族愛の感動のドラマは、医師のインフォームド・コンセント(患者への告知)の在り方に、家族の絆と愛されながら美しく安らかな生命の終末を迎える、という新しい問題を投げかけそうだ。
ガン治療は進み、生存率も高くなり、ガン告知は患者の知る権利という考えにもとずくインフォームド・コンセントが一般的になっきた。大病院の呼吸器外科医としてガン告知を信条としてきた医師が、突然、妻の末期ガンに直面、医師としての倫理と家族愛の狭間に悩んだ末、妻の命の灯を一日でも長く安息にと「告知」を拒否する。
大学教授選の最有力候補にあげられながら、退職願いを書いて妻と残された日を家族と一緒に楽しむ。テレビ朝日開局50周年記念ドラマとして主役の医師に渡哲也、妻に高畑淳子、息子に滝沢秀゛秋明のほか古谷一行、神山繁、高島礼子、舘ひろし、といった豪華キャストが出演する2時間ドラマ。
病院で長谷川誠至(渡哲也)が手術の執刀中、妻・十央子が救急車で運ばれ緊急手術の結果、小腸ガンと分かる。執刀医(古谷一行)は誠至に告知を迫る。外科医としてガン告知を信条としてガン克服につつとめてききた誠至だけに、当然、告知の勧告を受け入れるものと期待した執刀医は、妻への告知に躊躇した誠至に対して「それでも貴方は医師か」と迫って激論となる。
医師である前に人間として、残された日々の妻を愛して家族の絆を深めようと『告知せず』と執刀医に告げた。誠至を演ずる渡と執刀医役の古谷との論争は見せ場だった。
告知派の古谷は、自分の妻になると逃げるのは卑怯となじり、自分が主治医として告知すると告げる。渡は、「告知をするとしたら自ら行う」と古谷を斥ける。
十央子は入院するが、誠至は「腸閉塞だ」と偽る。夫のいうことだからと信じて安心し、医学生だった息子の涼(滝沢秀明)に入院用衣類のリストに赤い下着もいれて持参するようにはしゃいでみせる。脇でそのやりとりをみていた誠至・渡は「告知せず」がよかったと思いながらも、複雑な心境に陥る。
十央子のガンは転移、楽観できぬ病状に発展。主治医の古谷は、渡が言いしぶっているのをみて「僕なら告知しますよ」といい、渡は「頭では分かっている」と、また迷う。
渡哲也は大腸がんの経験者で、ドラマでも医師役は初体験だけになんとないギコチナサが出て、それが真実味が伝える。執刀と主治医を演ずる古谷一行は、例の明るい調子で「仕方にないですね。このまま治療します」とポンポンと割り切った言い方をする問答の場面も見せ場で、現在の終末医療の在り方を考えさせられた。
十央子は小康状態になって退院、以前にまして明るく振って楽しく家事をこなす。薄々は自分のガンに気付いているが、ダイエットだ、更年期障害を装って家族の絆を深めて、一家の"太陽として輝きを取り戻す。息子の涼(滝沢秀明)は、なにも知らずに医師の国家試験に合格、誠至はそのお祝い記念として十央子と涼の母子にグアム島旅行をプレゼントする。
グアムは誠至と十央子夫婦の新婚旅行地で、観光地めくりや恋人岬をまわり、浜辺で砂を撫ぜながら新婚旅行の思い出に耽る。皮肉にも十央子は突然倒れて、島の医師によってガンと告げられ、涼ははじめて母がガンだったことに気付いて後悔する。
グアムに駆けつけた誠至(渡哲也)に息子の涼は「どういこと。母さんは知っていたのか」と抗議。誠至はガン告知をしなかったのを明らかにして「そのほうがよいと思った。医者でいることはできなくなるが、笑顔をみたら告知はできない。30年間も連れ添ってきた・・」と、息子に心の内を明かした。
「また腸閉塞。こんどは手術しなくていいんでしょう」「私は生きたいの、やりたいことは沢山ある。早く元気になり、最後まで頑張って生きるから」と、母の十央子が口にするのを聞くと、医者の卵である涼も涼は最後までガンを口には出せなかった。十央子の余命は3カ月しかなかった。誠至は最後にホタルの籠をもっときて、妻の十央子はかってのデートを思い出し、最愛の絆に結ばれながら、静かに息を引き取った。
息子の涼(滝沢秀明)は、父親の誠至(渡哲也)は、がんの告知をできなかったのではなく、妻の十央子(高畑淳子)への愛から、「告知しなかった」ことを、葬式後に知る感動と家族愛のドラマである。
告知をすれば、患者も死を悟るという単純なものでなく、医療技術が進歩して命の灯火が消えるまで、家族の愛に包まれて、やり残したことを解決して安心して永眠するケースがふえてきた。
倉本聰のドラマ「風のガーデン」も、その物語を木曜日に10回連続で放映され、ガン告知を隠して、いったん失った家族との愛の絆を蘇らせて最後まで生きようとする、麻酔科の権威である外科医の姿を美しく描いている。
『告知せず』をみて、家族愛への感動から、インフォームド・コンセントの在り方につてい改めて考えさせられた。また、このドラマはテレビ朝日の50年間に最高の視聴率を記録しただけに、再放映を期待する。美しい家族愛のために、「告知しない」選択も、最後の瞬間まで幸福感に浸って生命を全うする自然の道と考えさせられた。
| 固定リンク

コメント