「ありふれた奇跡」またまた佳境へ
ドラマ『ありふれた奇跡』(山田太一・フジテレビ木曜劇場)は、第5話まで進んだ。人間味の暖かさをうたう山田イズムの本領が回を追うごとに色濃く描かれてさらに佳境に入った。
連続ドラマ、それも10回で毎木曜10時から1時間となると、1回でも見落としたらと、ともすれば敬遠されがちになる。初回の視聴率は12㌫をクリアー、好調なすべり出しで「一話一話進むごとに、どんどん引き込まれてゆく」といったコメントが相次いだ。視聴率は2回から10㌫代に落ちたが、4回から11㌫に回復、5回目にはさらに上昇、ドラマが予想外の展開をみせ、いよいいよヤマ場を向かえる。
ありふれた一般的な家庭や人間には、完全無欠ではなく、なにがしら影や曰くをもっている。そのなかで、みな纏まって幸福に生きて暮らしている。「奇跡」では、二つの家族が、そんなチャンスを不器用ながらうまく活かしている。
妻子を焼死させ自暴自棄からアルコール依存症になって絶望、飛び込み自殺をはかった中年男を、互いに見ず知らずの若い男女が一緒になって命がけで助ける。その二人にも、生きることに躓いて自殺をはかった暗い過去があった。これを機縁に二人の間に恋心が芽生え、それぞれに問題を抱える二人の家族が、恋の成就を願って力を合わせる。それを通じて二つの家庭が問題や曰くを乗り越えて幸福になる。偶然の奇跡が生んだ幸運を描いているが、身の回りにはそうした”奇跡”がありふれている。それが山田太一が、最後の連続ドラマとして書いた、山田イズムに徹したドラマである。
「さらりとしたセリフがキラキラしていてメモを取りたいほど深いです。他人を思いやっていることで不器用になったり悩んでいる姿が美しくて、だから自己中心的ではない人がいて安心するし、私もそうでありたいと思います。翔太(加瀬亮)が藤本さん(自殺未遂の男)に怒りをぶつけたのもすごく人間らしくてよかったです。田崎家(翔太一家)の親子3人のシーン大好きです。息がピッタリで優しさがあって。「ありふれた~」というだけあって、田崎家は普通の家で、ほうれん草をゆでていたりお茶碗洗ってたり、リアル感があって、いいと思いました。全体的にリアルなドラマだなと感じます。人間を深く描いていて出演者が俳優さんだということを忘れてドキュメンタリーを見ているようです。だから展開にとてもドキドキします。加奈(仲間由起恵)に対して困っている翔太も微笑ましくて、優しさにあふれていていいです。人間はいろんな面を持っていて、そういうところもよく伝わってきますし、だからとても面白いドラマだと思います」
第三話まで観た30歳のOLからのコメントである。同様のコメントが多く、「幸せって案外身近な所にあるんだなってことです。本当に今の現代人にとって大切なことが沢山詰まっているドラマと思います」というコメントを読んで同感した。
先週放送の第四話では、主役の中城加奈(仲間由紀恵)と田崎翔太(加瀬亮)の二人の間が接近、加奈が翔太の家、田崎家を訪れる。互いに想いを秘めながら、はっきした態度をとれない弱気の翔太も彼女を自分の家へ案内、家族に会わせることに踏み切る。
田崎家は左官屋で、父親は妻に逃げられ市の水道局に勤務、家業を継がないファージー男。左官屋を仕切ってきた祖父は腰を痛め、事務機器会社をリストラされた翔太が跡を継ぐ、男ばかりの3人暮らしである。父親役は風間杜夫、祖父を演じる井川比佐夫の渋い好演技がドラマを盛り立てる。
男やもめの所帯へ、若い娘がくるというので大はしゃぎでワクワクしている。翔太は大学時代にアイルランドに渡り、アイリッシュダンスを覚え、加奈にダンスを教え、二人で彼の部屋で踊る。ミシミシと響く音に風間と井川は、二人の恋が実ったと早合点して祝福、翔太にとんだ勘違いと怒られるユーモラスで、暖かみのあるシーン。
加奈と翔太は、「そんな関係じゃあない」と言いながら、想いは深まって肩を並べて、下町の夕景色に見惚れるシーンは美しく、二人の将来を暗示している。カメラワークに喧しい山田太一だけに、美しい情景が心に響く。
加奈を左官屋の軽自動車で自宅まで送る。近所の人に誤解されてはと、翔太は少し前で加奈を降ろして別れるが、家族に知られてしまう。翔太一家と撮った写真を祖母役の八千草薫にみつかり、そこ映っている翔太は、かつてボランティアを頼んですっかり気に入った青年だった。八千草は、その偶然を喜んで、加奈の両親にこっそり打ち明けて、二人が結ばれるように動く。
加奈の中城家にも問題があった。父親(岸部一徳)は高級サラリーマン、母親(戸田恵子)は人形教室を開いているが、男性教師と曰くがありそうで一家はバラバラ。家族はみな承知しているが口には出さない。祖母役の八千草薫が、すべてを心得て丸くおさめている。そこえ、加奈にほのかな想いを寄せる翔太の話が降って沸き、バラバラだった一家はひとつに纏まって、母親の曰くも解消する。
そして、加奈と翔太の父親同士が会う。ここで第四話は終わるが、2月にはいって、5話は予想外の展開に発展した。
五話はこれまで詳しく触れられなかった加奈の中城家の内情を中心に描かれて、一筋縄にはゆかない山田ドラマの片鱗を覗かせた。
中城加奈(仲間由紀恵)の父親(岸部一徳)は精密機械大手メーカーの部長、片や田崎翔太(加瀬亮)は下町のしがない左官屋生まれ、釣り合いがとれそうもない。ところが、父親同士が顔を会わせた途端、二人は女装クラブのメンバーで顔見知りだった。
岸部を登城させた裏には、なにかあると予想していたが、女装趣味の高級サラリーマン。翔太の父親、風間杜夫は妻に逃げられた水道局員だが、これまた女装趣味で、岸部と風間は家族に内緒で意気投合、ふたりして女装して街を歩く。思いを寄せながら結ばれようとしている娘と息子に女装趣味を告白するか意見が分かれる。
翔太はサラリーマン失格に絶望、自殺を試みようとした秘密を加奈に告白するが、加奈は自分の過去に口を閉ざす。「結婚したら、何人ぐらい子供が欲しい?」と、加奈は翔太に話しながら、いざとなるとはぐらかしてしまう。翔太の執拗な追求に「わたしは子供を産めない体」とだけ告白、「元カレとのためか。俺は子どもがいなくてとも構わない」と翔太に迫られて、泣きながら逃げてゆく。
女心に疎い翔太は、ショックを受けながらも加奈への想いは強まり、二人は毎日のようにメール交換をして、仲は深まってゆくが、加奈は子どもを産めない体になった原因を明かせずに悩む。
一方、加奈の中城家では、母親が人形教室の教師との曰くは解消したものの、虚脱の日々で家事もできない。加奈と祖母の八千草薫は、承知しながら口に出さないで素振りにも出さず家族がバラバラになぬよう気配りをしていた。ある夜、八千草は「ふたりでお酒を飲まない・・」ウイスキーを手に、鬱状態でベットにいる嫁(50)の部屋を訪れる。「内緒だが、あなたと同じ年頃に恋をしてしまたのよ。いま考えると、バカな男だったのに・・」と、笑いながら打ち明ける。
あの八千草薫に不倫イメージはむすびつかないが、嫁(加奈の母親)も虚を突かれたようにベットから立ちあがる。嫁を虚脱から立ち上がらせようとする芝居とも受け取れるが、なんとかして家族を丸くまとめてゆこうする素晴らしいシーンだった。
孫の加奈の恋を成就させてやりたい、それには家族がバラバラではという心遣いがうかがえる。岸部や風間を女装趣味にさせたかと想うと、姑が嫁に昔の秘密の恋を告白させたり、山田太一もやるもんだと、ドラマから目を離せなかった。
そして、秘密を打ち明けられずに悩む加奈は、思いまって自殺男とアルコール依存症の藤本(陣内孝則)を訪ねて、逆に絡まれる。ここで五話は幕になっている。
ドラマは折り返し点になって、いよいよ見せ場の登城である。四話を見終わったとき、こんな予想はまったくつかなかった。これからの展開が楽しみだが、一筋縄でメデタシ、メデタシで幕になるとは考えられない予想外の展開に胸を躍らせる。
いままでのところ、ぐずな現代若者を象徴する加瀬亮に、女性たちの人気が集中、彼の演技を絶賛するコメントが圧倒的に多かったが、仲間由紀恵と八千草薫の出番が多かった五話には、どんな反応がみられるかも楽しみである。これからが、山田太一の本領をえがく見せ場が待っていると思うと見落とせない。
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