水中ウォークブームとマナー
水中ウォークをはじめてから3年、週に3回ほどプールにかよっている。最近、フィットネスクラブなどでは、水中歩行ブームのためウォーク・コースが数珠つなぎの渋滞ぶりで、ウォーカーのマナーの悪さが、楽しみを半減させている。
股関節を痛めて、水中歩行が効果的と聞かされてはじめたのが3年前。水の浮力で身体が軽くなって歩いても痛みがなく、その効果につられて、いまでは欠かせない日課になった。プールの中を、ただ黙々と1時間近くも歩き続けられるか自信がなかったが、後ろ向き歩き、横歩き、つま先立ち歩き、踵歩きなど、いろいろなバリエーションを組み立てて歩いていると、時間があっという間にすぎてゆく。
それに、プールへゆく時間と曜日が決まっているので、コースを歩く顔ぶれがきまっていて顔馴染みができる。深い付き合いはしないが、会話をかわすようになって楽しみがふえる。「継続は力なり」といっても、独りだけで同じ歩き方を繰り返していては飽きてくる。仲間ができると、歩き方を工夫したり、効果を確かめあったりするほか、軽い世間話もするので長続きするようになる。
通っているフィットネスクラブは、ビルの4、5階にあって付近に高層ビルがないので眺望がよく、四季に変化する外の景色を眺めながら歩いていると、散歩しているような気持ちになって、気分転換には最高である。
ジムやフィットネスクラブは、ビルの地下や外から見えないように遮蔽するケースが多く、それまで通っていたジムは地下のため穴倉にいるようで、体を鍛えるというだけで楽しみはなかった。ジムやクラブも環境が大切である。
フィットネスクラブやジムというと、若い人やスポーツの筋肉マンを連想しがちだが、いまは若者よりも熟年層が圧倒的に多い。定年になって時間に余裕ができた団塊世代、美容と健康のための中年主婦が主流である。それに、最近は、足腰に故障ができた高齢者の参加が目立ちはじめた。
月額8000千円程度の費用で、マシンで自転車漕ぎ、ウォーキング・ミルで歩行の筋トレ、ハワイアンを踊ったり、太極拳、ヨガに参加。最後はプールに入って水中ウォークをしたあとジェット・バスで体をほぐす。そして、広い浴場で入浴、マッサージ・マシンにかかる。暇つぶしに、毎日、朝から夕方まで過ごす高齢者もいる。
「ここで入浴してゆけば、家では風呂に入らない。ガス代を考えれば大した費用ではないし、お友達ができてお喋りも楽しめる」といった高齢者の独り暮らしの女性も多く、データイムは中高年女性の溜まり場という様変わりである。
カラフルで派手な水着になると年齢を忘れ、泳ぐのは大変だから、もっぱら水中ウォークで足腰の老化を防ぎ、すこし体力に余裕があると水中ヨガやアクアにも参加するといった具合で、プールはいつも賑わっている。水温は常時30度の温水プールだから、冬場も寒くはなく、身体が温まるから、はじめてプールに入る高齢者にも抵抗はないらしい。
それに、プールの中では、水の浮力が転倒を防止して転ばないし、万一の場合も怪我をしない。最高の転倒防止という魅力も足腰の弱った高齢者には捨てがたい魅力である。
最近、ちょつとした異変がおきた。1レーンしかない狭いウォーキングコースへ50代の中年女性グループが現れ、反動をつけながら大股で水を蹴りながらスピードをつけて列になって歩きはじめた。ロープにつかまりながらゆっくり歩いていた高齢者たちを押しのけるようにして追い越してゆく。彼女が歩いた後は水流の渦ができて、老人たちはよろめく。
中年女性グループの先頭を歩くリーダーは、追い越しの際にも会釈もせず、まさに「そこ除け」といわんばかりの勢いに高齢者たちは逃げるようにロープやプールサイドに避難する。穏やかだった歩行コースの雰囲気が一変し、棘々とした空気が流れた。プールサイドにいた監視員もその剣幕に押されてなにも言わない。
水中ウォークのガイドブックには「話しながら歩くようなスピード」と書いてある。水の抵抗に逆らいながら、一歩一歩しつかり踏み出して筋肉を強くする意識をもって歩けといわれ、それを心がけてきたのに、あの中年女性グループの馬力で闊歩するやり方は傍若無人で、マナーもなにもないと腹がたった。
知り合いのスポーツ指導者に疑問をただしたら、こんな回答がかえってきた。 「中年女性たちの水中歩行は有酸素的、高齢者の方たちは筋力アップが目的ではないでしょうか。彼女たちは筋力をつけることよりダイエットに関心があるので反動をつけて大股に勢いよく歩くのてはないですか?。それに、中年おばさまたちはストレス発散も兼ねて楽しんでいるのではないですか?。かつて日本は反動をつけるラジオ体操がさかんでしたが、ボブアンダーソン(米国のスポーツ理論家)が最新のストレッチをひろめてからは、反動をつけるバリスティックストレッチは危険が多いということで、静かに動くストレッチの全盛期になって今に至っています。バリスティックも使い方で効果が出るので良いと思っています」
水中歩行には、ダイエット効果のあることを忘れていた。
そういえば、脂肪のかたまりのような中年太りの女性グループだった。足腰に故障をかかえ筋トレしか頭にない高齢者には、"闖入者"のように思えてななかった彼女たちは、ダイエットだけしか頭になく、そのためには真剣になって馬力のように歩くのに懸命で、まわりの高齢者のことなど考える余裕もないのだろうと、納得がいった。
ただ、問題なのは彼女たちのプールマナーである。本来なら分別盛りで周囲への配慮があって然るべき年代である。「お先に」にぐらいの挨拶をし、追い越しの際には少しスピードを落とすぐらいの良識があるのが普通である。自分本位に周囲の迷惑も考えずにガムシャラに歩きまくるのは問題である。
水中歩行ブームが高まれば、ますますこうしたマナー知らずの中年女性が増えてくるかもしれない。泳いでいても狭い往復一緒のコースでは、手足や体が触れることもある。ひところ前なら、女性のほうから「失礼しました」と折れてでたが、いまは男性が「すみません」といわないと、変な目で見られかねない。
初心者の場合、衝突事故やトラブルを避けるため、往路と複路を別々にして2本のコースに分けるクラブがふえてきたが、プールでのマナーアップは必要である。
とくに、ラッシュとなる歩行コースは、ゆっくりと踏みしめながら歩く高齢者と、ダイエットのため勢いをつけて元気よく歩く中年女性とは、どうしても歩くリズムやスピードが違い、追い越しが起こるのは避けられない。
追い越しが出来るようコースの幅を広げたり、交通整理をする必要があるが、それより先に、追い越しには会釈をかわすとか、声を掛け合うマナーを確立すべきである。老人は、とかく自分たちのペースで歩ける占有コースと思いがちで、ダイエットおばさんたちにペースを乱されると腹を立てる。
一方、少しでもダイエットをと、スピードをあげて歩く中年女性は、高齢者への気くばりと、互いに不愉快な思いをさせないというマナーを心がけてほしい。追い越しながら「お元気ですね。頑張ってください」と声をかけるぐらいの余裕があれば、老人も「どうぞ」と笑顔で譲るようになり、不快な思いをせずに水中歩行を楽しめるようになるだろう。
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